山形の辛口日本酒5選 — 全国ドライ上位10に3本を送り込む「隠れ辛口県」

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山形の日本酒と聞いて思い浮かぶのは、十四代や出羽桜のような「香りと甘みのある酒」ではないでしょうか。ところが当サイトが利用しているさけのわデータの「ドライ」値で見ると、山形はまったく別の顔を持っています。

収録1346銘柄のドライ値で上位25%の境界は0.367。山形県の63銘柄のうち、これを超えるのは25銘柄です。

「本数」は新潟に次ぐ2位、「尖り方」では新潟を上回る

ドライ上位25%に入る本数を都道府県別に並べると、山形の25は新潟(42)に次ぐ全国2位です(3位は長野の22、4位が青森の20)。

面白いのはここから先です。全国のドライ上位10銘柄を見ると、山形勢が3本入っています。

全国順位 銘柄 都道府県 ドライ
5位 ばくれん 山形県 0.761
7位 かっぱ 山形県 0.739
8位 山法師 山形県 0.717

辛口の本数で1位の新潟は、この上位10に1本も入っていません。県平均のドライ値でも山形は0.356で、収録10銘柄以上の40都道府県中5位(高知0.416、青森0.408、静岡0.368、北海道0.358に次ぐ)。新潟は0.342で8位です。

つまり山形の辛口は、本数もあり、かつ突き抜けた一本もいるという珍しい形をしています。

有名銘柄だけを見ていると辛口県だと気づけない

山形がそう見えない理由は数値にはっきり出ています。さけのわランキングに入っている山形勢6銘柄のドライ値は、次のとおりです(全国平均は0.310)。

銘柄 ドライ
十四代 0.183
栄光冨士 0.270
くどき上手 0.284
出羽桜 0.285
楯野川 0.308
上喜元 0.429

上喜元を除く5銘柄が全国平均以下、十四代にいたっては0.183です。県内のドライ値は0.055(ひととき)から0.761まで広がっているので、知名度の高い側だけを見ると山形の辛口は視界に入らないという構造になっています。

そこで該当25銘柄を6軸フレーバーベクトルで比べ、互いのコサイン類似度がなるべく低くなるように(=味の方向が重ならないように)5本を選びました。蔵は重複させていません。並び順はドライ値の高い順です。

1. ばくれん(亀の井酒造)|削れるものは全部削った

ドライ0.761は全国5位、山形県内では最高値です。ただしこの銘柄の本当の特徴はドライ値そのものではなく、他の軸が軒並み低いことにあります。

芳醇0.323は全体の下位1.5%、重厚0.140も下位1.5%(山形63銘柄中の最下位)、穏やか0.227は下位3.9%。華やか0.227も下位16%です。軽快0.441だけがほぼ全体平均(0.422)どおり。

つまり旨味の厚みも、どっしり感も、丸みも、香りも出さず、キレだけが残っているという数値の形です。山形の顔である十四代との類似度は0.744で、今回調べたなかで最も遠い組み合わせでした。同じ県の酒とは思えないほど離れています。

濃い料理を受け止める力はありません。逆に、脂を切りたいとき、口をリセットしたいときに数値どおり働くタイプです。

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2. 香梅(香坂酒造)|「重さだけ」を抜いた辛口

ドライ0.511は全国上位4.5%(県内6位)。1本目に比べると、他の軸の削り方がかなり選択的です。

重厚0.178は下位4.7%(県内60位)とはっきり低い一方、華やか0.359・穏やか0.422・軽快0.439はいずれも全国平均(0.339/0.393/0.422)とほぼ同じ。芳醇0.456は下位12%とやや薄めです。

要するにどっしり感だけを抜いてキレを立て、香りも丸みも平均どおり残してある形。ばくれんのような極端さがないぶん、辛口として日常的に飲める位置にいます。同じ山形の上喜元との類似度は0.988で、県内の「標準的な辛口」に最も近いのがこの1本です。

今回の5本のなかでは基準点として使えます。これを飲んでから他の4本に行くと、それぞれの尖り方が分かりやすくなります。

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3. 住吉(樽平酒造)|香りがほぼ検出されない、重い辛口

ドライ0.435は上位11%。ここまでは他と同じですが、他の軸の並びが今回の5本で最も変わっています。

華やか0.076は全体の下位1.2%(県内62位)。重厚0.517は**上位6.4%**で県内2位。軽快0.270は下位7.6%です。芳醇0.554と穏やか0.397はほぼ全国平均。

香りをほとんど出さず、どっしり重く、軽快さもない辛口という、いまの流行とは正反対の数値をしています。ばくれんとの類似度0.809は5本の全10ペア中で最も低く、「同じ辛口」という言葉がいかに大雑把かがよく分かる組み合わせです。

重厚が高く軽快が低い酒は、冷やすと固く感じられやすい一方で、温度を上げると輪郭がほどけやすい——というのが一般的な燗の考え方です。この数値の並びはまさにその条件に当てはまります。

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4. 三百年の掟やぶり(寿虎屋酒造)|速くて、丸くない

ドライ0.400(上位17%)に、軽快0.577が乗ります。これは**上位4.9%**で県内3位。3本目とは正反対の位置です。

そして穏やか0.218は下位3.2%(県内61位)。華やか0.374は平均よりやや上、芳醇0.477は下位18%、重厚0.304はほぼ平均。

入りから消えるまでが速く、そのあいだに丸い当たりがないという形です。軽快が高いだけなら飲みやすい酒になりますが、穏やかが下位3%まで落ちているので、飲みやすさよりも鋭さが前に出ます。

住吉との類似度は0.866。ドライ値は0.435と0.400でほとんど差がないのに、飲んだ印象は最も離れる2本です。辛口を「重さ」で選ぶか「速さ」で選ぶかの分岐点がここにあります。

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5. 羽陽男山(男山酒造)|キレはあるのに、当たりが柔らかい

ドライ0.386は上位20%と辛口側にありながら、穏やか0.509は上位9.0%(県内6位)。今回の5本で最も丸い数値です。

重厚0.411も上位18%(県内4位)で、軽快0.344は下位19%。華やか0.267は下位27%、芳醇0.483は下位20%。ゆっくり流れて、当たりが柔らかく、それでいてキレは残るという組み合わせになります。

キレのある酒はアルコールの当たりが強く出ることがありますが、この数値の並びはその逆方向です。4本目の三百年の掟やぶりとは穏やか0.218対0.509、軽快0.577対0.344とちょうど裏返しの関係になっていて、同じ「山形の辛口」の振れ幅を示しています。

辛口は好きだが刺激は要らない、という人向きの数値です。

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もっと辛い方向に振りたいなら

ドライ値だけを追うなら、山形の上位はこの並びです。

銘柄 ドライ 穏やか 重厚 軽快
ばくれん 0.761 0.227 0.140 0.441
かっぱ 0.739 0.140 0.143 0.536
山法師 0.717 0.283 0.207 0.454
0.577 0.341 0.264 0.492
亀治好日 0.522 0.379 0.399 0.377
別嬪 0.510 0.402 0.281 0.377

上位3本はいずれも重厚0.2前後まで削ってあり、方向性は近い並びです。一方で5番目の亀治好日は重厚0.399・軽快0.377と、上位3本とはまったく別の設計になっています。ドライ0.5以上のゾーンでも、重厚軸を見れば選び分けができるということです。

山形で辛口を選ぶときの物差し

山形は「辛口の県」として語られることがまずありません。それでも数値上は、全国のドライ上位10に3本を送り込み、上位25%該当数でも全国2位につけています。有名銘柄が甘め・香り高めに寄っているために見えにくいだけです。

そして辛口側に絞っても、今回の5本のように華やか0.076から0.374、重厚0.140から0.517、穏やか0.218から0.509まで散らばります。ドライ値が近くても、重厚と穏やかの2軸を見ないと選べない——これが山形の辛口の実態です。

自分がどの軸に寄っているかは、1分の日本酒診断で確かめられます。辛口そのものの考え方は辛口日本酒入門、本数トップの県については新潟の辛口日本酒5選もあわせてどうぞ。