芳醇な日本酒5選 — 「旨味・コク」は3分の2の酒に当てはまるので、2つ目の軸で選ぶ

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「旨味とコクのある日本酒がほしい」——酒屋でこう伝えても、たいてい候補は絞れません。店員が困っているわけではなく、その条件に当てはまる酒が多すぎるからです。

当サイトが利用しているさけのわデータの6軸フレーバー(華やか・芳醇・重厚・穏やか・ドライ・軽快)で1346銘柄を集計すると、そのことが数字ではっきり出ます。

「芳醇」は6軸のなかで唯一の標準装備

まず、6軸それぞれの全体平均と散らばりです。

平均 標準偏差 下位10%〜上位10%の幅
芳醇 0.535 0.076 0.448〜0.621(0.173)
軽快 0.422 0.104 0.298〜0.545(0.247)
穏やか 0.393 0.096 0.272〜0.507(0.235)
華やか 0.339 0.113 0.193〜0.480(0.287)
重厚 0.328 0.112 0.205〜0.475(0.270)
ドライ 0.310 0.111 0.184〜0.443(0.259)

芳醇は平均が6軸で最も高く(0.535)、散らばりが最も小さい(標準偏差0.076)。他の5軸が0.23〜0.29の幅で開くのに対し、芳醇は0.173しか開きません。

決定的なのは次の数字です。6軸のうち最も値が大きい軸を「その銘柄の顔」とすると、収録1346銘柄の内訳はこうなります。

最大軸 銘柄数 割合
芳醇 884 65.7%
軽快 220 16.3%
穏やか 105 7.8%
ドライ 69 5.1%
重厚 37 2.7%
華やか 31 2.3%

3分の2の銘柄で、芳醇が一番高い軸です。人気トップ100に限っても58銘柄が該当します。「旨味とコクがある」は特徴の説明ではなく、日本酒の初期設定に近い状態を指しています。

それでも「芳醇で絞る」と、なぜかバラバラになる

ここからが本題です。人気トップ100を各軸の全国上位25%で絞ったとき、残った群がどれだけ似た者同士になるかを、コサイン類似度の平均で測りました(1に近いほど互いにそっくり)。

絞り込む軸 該当本数 群内の平均類似度
穏やか 14 0.987
ドライ 13 0.984
軽快 49 0.980
華やか 61 0.978
重厚 7 0.961
芳醇 16 0.934
(絞らない人気100全体) 100 0.958

他の5軸はどれで絞っても、群が人気100全体(0.958)より似た者同士になります。芳醇だけが逆で、絞ったのに全体よりバラける。絞り込みとして機能していない、唯一の軸です。

理由は、該当した16銘柄が2つの塊に分かれているためでした。重厚0.5を境に分けると、こうなります。

グループ 銘柄 群内の平均類似度
重厚0.5以上(4本) 玉川・菊姫・悦凱陣・天狗舞 0.990
重厚0.5未満(12本) 東洋美人・十四代・亀泉ほか 0.978
2グループの間 0.867

それぞれの塊のなかは0.99前後で固まっているのに、塊をまたぐと0.867まで落ちます。同じ「芳醇上位」でも、中身は別の酒だということです。

これは軸同士の相関にもそのまま出ます。芳醇と他5軸の相関係数は、重厚+0.448、穏やか+0.113、華やか-0.177、ドライ-0.505、軽快-0.558。旨味の量は重厚と一緒に増え、軽快・ドライと引き換えになる関係にあります。

つまり旨味の酒を選ぶときの最初の分岐は、旨味の量ではなく「その旨味に重さを付けるかどうか」です。

今回選ぶ範囲

重さを付ける側——重厚0.5以上の4本(玉川・菊姫・悦凱陣・天狗舞)は、温度で開くタイプとして燗酒に合う日本酒5選で、脂のある料理に当てる文脈では肉料理に合う日本酒5選で、すでに扱っています。

そこでこの記事は残り側、「旨味はしっかりあるが、重厚では押さない」帯を担当します。人気トップ100かつ芳醇上位25%の16本から、重厚0.5以上の4本と、既存記事で主役にした3本(くどき上手・尾瀬の雪どけ・花邑)を除いた9銘柄が母集団です。

この9本から、都道府県が重ならず、最も似ているペアの類似度が最小になる組み合わせを総当たりで探しました。選ばれた5本を、重厚の高い順に並べます。

1. ソガペール エ フィス(長野県・小布施ワイナリー)|9本のなかで最も重心が低い

芳醇0.618(上位11.6%)に、**重厚0.422(上位16.9%)**が乗ります。母集団9本のなかで重厚の最高値です。

同時に軽快0.325は**下位14.5%**で、こちらは母集団9本の最低値。ドライ0.193も下位11.9%です。旨味に厚みと重さがあり、軽さも切れ味も持たないという形になります。上で見た「重厚0.5以上」の4本には届きませんが、方向としてはそちらに最も近い1本になります。

亀泉との類似度0.904は、今回の10ペアで2番目に低い数値でした。旨味のある酒に飲みごたえを求める人は、ここから探し始めるのが最短です。

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2. 雪の茅舎(秋田県・齋彌酒造店)|旨味に角がない、丸い方向

芳醇0.589(上位23.3%)に対して、穏やか0.462が上位21.2%。5本のなかで穏やかの最高値です。

残りの軸は華やか0.387、重厚0.273、ドライ0.252、軽快0.390と、どれも全体平均の近くに収まります。突出した軸を作らず、旨味に丸さだけを足したプロフィールで、6軸のバランスという意味では今回の5本で最も中庸です。

亀泉との類似度0.894は10ペア中の最小値でした。旨味は欲しいが、香りでも重さでも主張してほしくない——という条件に、この数値の並びが対応します。

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3. 栄光冨士(山形県・冨士酒造)|旨味があるのに後口が軽い

芳醇0.586(上位25.7%)を保ちながら、軽快0.474(上位29.3%)とドライ0.270(上位64.0%)がどちらも5本の最高値です。

芳醇は軽快と-0.558、ドライと-0.505の逆相関があるので、この3つが同時に高い並びは相関から外れた形になります。穏やか0.263は上位91.5%=下位1割弱で、丸さの評価は低く出ています。旨味の量は確保しつつ、口のなかに残さないという組み合わせです。

旨味のある酒は一杯目は良くても後半にもたれやすい、と感じる人がいます。その不満に数値で応えているのがこの1本で、晩酌のように長く飲む場面に向く並びです。

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4. 東洋美人(山口県・澄川酒造場)|旨味の量そのものが母集団の最大

**芳醇0.623は上位9.4%(全国121位)**で、母集団9本の最高値。旨味の絶対量で選ぶなら、今回の範囲ではこれが答えになります。

華やか0.488も上位8.8%と高く、重厚0.238は上位80.2%、ドライ0.203は上位85.5%。旨味と香りを両方高く取り、重さとキレを引いた形です。穏やか0.350、軽快0.392はほぼ全体平均で、極端な軸を作らないまま数値だけが高い位置にあります。

旨味の量は料理と合わせるときの余力になります。味の濃い料理に酒が負けにくくなるためで、和洋を問わず食中で使いたいときはこの芳醇の高さが効きます。

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5. 亀泉(高知県・亀泉酒造)|旨味を、重さから完全に切り離した形

芳醇0.593(上位21.0%)に対し、重厚0.115は全国1336位(下位0.7%)、穏やか0.127も全国1337位(下位0.7%)。どちらも収録1346銘柄のほぼ最下位です。

さらに華やか0.629は全国9位(上位0.7%)、ドライ0.142は下位4.2%。香りが極端に高く、重さも丸さもキレもほぼ数値に出ないという、今回の5本で最も尖ったプロフィールになります。

芳醇と重厚は+0.448で連動する関係でしたが、この銘柄はその関係から最も遠い位置にいます。他の4本との類似度は0.894〜0.960で、いずれも5本のなかでは低い側。旨味は欲しいが、重い酒はどうしても苦手という人にとっては、これが唯一の解になり得る数値の並びです。

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5本の数値を並べる

銘柄 華やか 芳醇 重厚 穏やか ドライ 軽快
ソガペール エ フィス 0.434 0.618 0.422 0.331 0.193 0.325
雪の茅舎 0.387 0.589 0.273 0.462 0.252 0.390
栄光冨士 0.473 0.586 0.258 0.263 0.270 0.474
東洋美人 0.488 0.623 0.238 0.350 0.203 0.392
亀泉 0.629 0.593 0.115 0.127 0.142 0.451

芳醇は0.586〜0.623と、最大でも最小の1.06倍しか違いません。それに対して重厚は0.115〜0.422で3.67倍、穏やかは0.127〜0.462で3.64倍に開きます。旨味の量ではほぼ横並びなのに、飲んだ印象がまったく違う——記事の主張がそのまま表になった形です。

選ばなかった4本のほうが、話が早いかもしれない

母集団9本のうち、今回入らなかったのは村祐(新潟)・冩楽(福島)・十四代(山形)・鳳凰美田(栃木)です。外した理由はどれも同じで、選んだ5本と数値が近すぎたためでした。

選ばなかった銘柄 最も近い採用銘柄 類似度
十四代(山形県) 東洋美人 0.999
冩楽(福島県) 東洋美人 0.998
鳳凰美田(栃木県) 東洋美人 0.995
村祐(新潟県) ソガペール エ フィス 0.992

十四代と東洋美人の0.999は、6軸で見るかぎりほぼ同一と言っていい数値です。芳醇上位の人気銘柄は互いによく似ている——冒頭の「芳醇では絞れない」は、母集団を絞り込んだあとの内側でも成立していました。

裏を返せば、この4本は上の5本を試して当たりだったときの「次の1本」として、そのまま使えます。

旨味の絶対値をもっと上げたいなら

人気ランキングの外まで広げると、芳醇の上位はこの並びになります。いずれも人気トップ100圏外の銘柄です。

銘柄 都道府県 芳醇 重厚 軽快
栃茜 栃木県 0.803 0.012 0.251
岩豊 新潟県 0.715 0.499 0.267
ひこ孫 埼玉県 0.714 0.513 0.146
居谷里 長野県 0.713 0.486 0.257
宗政 佐賀県 0.710 0.377 0.294
満天星 鳥取県 0.700 0.654 0.082

芳醇の全国1位は栃茜の0.803です。ただしここでも重厚は0.012から0.654まで開きます。栃茜(重厚0.012)と満天星(0.654)は芳醇0.7超という点では同じ棚に入るのに、重さの評価は正反対です。芳醇の数値が高い銘柄同士を比べるときこそ、重厚を第二の物差しに置く必要があります。

なお、芳醇が最大軸の884銘柄について「2番目に大きい軸」を数えると、穏やか297・軽快296・重厚154・華やか93・ドライ44。旨味の酒の多数派は、重厚型ではなく穏やか型か軽快型です。旨味=重い、というイメージは、数のうえでは少数派を指しています。

芳醇な酒を選ぶときの順番

決めるべきは旨味の量ではなく、旨味に何を組み合わせるかです。

  • 飲みごたえがほしい → ソガペール エ フィスの型(重厚が高く、軽快・ドライが低い)
  • 角のない丸さがほしい → 雪の茅舎の型(穏やかが高く、他が中庸)
  • 後口を残したくない → 栄光冨士の型(軽快・ドライが高い)
  • 旨味の量を最大化したい → 東洋美人の型(芳醇が母集団最高、香りも高い)
  • 重い酒が苦手 → 亀泉の型(重厚・穏やかが全国最下位クラス)

もっと重い方向へ振り切るなら燗酒に合う日本酒5選、料理に当てる前提なら肉料理に合う日本酒5選が、この記事が意図的に外した「重厚0.5以上」の帯を扱っています。逆に香りの側から入りたい場合はフルーティーな日本酒5選、6軸の意味そのものを押さえたい場合は日本酒の選び方入門をどうぞ。

自分の旨味の好みがどちら側に寄っているかは、1分の日本酒診断で確かめられます。3分の2の銘柄が該当する軸だからこそ、2つ目の軸を先に決めておくと外しません。