年末年始・お正月に飲みたい日本酒5選 — おせちを「1本で通す」のはデータ上むりがある

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年末年始は、1年でいちばん同じ食卓が長く続く期間です。大晦日の年越しそば、元旦の乾杯、重箱のおせち、お雑煮、そして親戚が集まる三が日。ここで「お正月用に1本だけいい酒を買う」という選び方をすると、たいていどこかの場面で噛み合いません

理由は、正月の食卓に並ぶものの味の幅が広すぎるからです。当サイトが利用しているさけのわデータの6軸フレーバー(華やか・芳醇・重厚・穏やか・ドライ・軽快)で収録1346銘柄を集計すると、それが数字で確認できます。

「おせちの甘い段」と「塩気の肴」は、1本も重ならない

正月の料理を、酒に求める性質で4つの型に分けて母集団を切ってみます。しきい値は全1346銘柄の四分位点です。

  • 乾杯型(元旦の一杯目)= 華やか0.414以上(上位25%)かつ 軽快0.484以上(上位25%)→ 185銘柄
  • 甘い段型(黒豆・栗きんとん・伊達巻・煮しめ)= ドライ0.240以下(下位25%)かつ 芳醇0.542以上(上位50%)→ 243銘柄
  • 塩気型(数の子・かまぼこ・お雑煮・刺身)= 穏やか0.450以上(上位25%)かつ ドライ0.303以上(上位50%)→ 185銘柄
  • 締め型(年越しそば)= 軽快0.484以上(上位25%)かつ 芳醇0.497以下(下位25%)→ 190銘柄

このうち、甘い段型と塩気型の重複は0銘柄でした。428本が2つのグループに分かれて、1本も掛け持ちしていません。さらに乾杯型と塩気型の重複も0銘柄です。

一方で、乾杯型と締め型は90銘柄が重複します。つまり「元旦の乾杯と年越しそばは同じ酒で兼ねられるが、その酒はおせちの甘い煮物にも数の子にも向かない」というのが、データが示している形です。

理由は軸同士の相関にあります。1346銘柄で計算すると、「芳醇」と「ドライ」の相関係数は -0.51、「華やか」と「穏やか」は -0.51、「穏やか」と「軽快」は -0.41。甘みと旨味を持つ酒はキレを失い、香りが立つ酒は落ち着きを失う。正月の重箱が要求している性質は、1本の酒のなかで両立しません

そこで以下は、年末年始の場面ごとに1本ずつ選んでいます。最後の5本目だけ、どの型にも属さない「1本で通したい人向け」です。銘柄はすべて、さけのわランキング上位100位以内の入手しやすいものから選びました。

1. 大晦日の年越しそばに — 森嶋(茨城県・森島酒造)

締め型に該当。人気100銘柄のなかで「軽快」14位(全国1346銘柄中77位)・「ドライ」22位に対し、「芳醇」は95位(全国1247位)。旨味の量が意図的に薄い側に置かれた形です。

年越しそばは、大晦日にひととおり食べたあとの締めの一杯として食卓に出ます。そばつゆの出汁と醤油の塩気に対して、旨味の厚い酒を合わせると味の総量が過剰になる。ここで効くのは、旨味を足さずに口を流してくれるタイプです。軽快が高くドライも高いこの型は、そばの香りを邪魔せず、天ぷらを添えたときの油もきちんと切ります。年越しそばの前に食べているのが唐揚げや刺身であっても、同じ理屈で最後まで走れます。

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2. 元旦の乾杯に — 水芭蕉(群馬県・永井酒造)

乾杯型に該当。「華やか」は人気100銘柄中17位(全国89位)、「軽快」26位。そのうえで**「芳醇」は84位(全国1087位)と低い**のがこの一本の特徴です。

元旦の一杯目は、料理を食べる前の空きっ腹に入ります。ここで旨味の濃い酒を最初に置くと、そのあとに続くおせちの味が全部そのあとを追いかける形になる。香りが立って、口に残らないタイプのほうが、席が始まる合図として機能します。香りは全国上位7%にありながら旨味は薄い側という組み合わせは、**まさに「一杯目のための形」**です。冷蔵庫でよく冷やして、小さめのグラスで注ぐと香りが立ちます。

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3. おせちの甘い段(黒豆・栗きんとん・伊達巻)に — 彩來(埼玉県・北西酒造)

甘い段型に該当。「ドライ」0.176は人気100銘柄中90位、全国1346銘柄でも1235位(下から8%)。そのうえで「芳醇」35位・「華やか」12位(全国67位)と、甘みの側に大きく振れながら香りと旨味を持っています。

おせちの甘い一群、つまり黒豆・栗きんとん・伊達巻・煮しめに使う砂糖の量は、普段の和食とは桁が違います。この相手に辛口を合わせると、料理の甘さだけが浮いて、酒は辛さの角だけが残る。料理と同じくらい、あるいはわずかに酒のほうが甘い位置に置くと、双方が丸く収まります。栗きんとんのような菓子に近い一品まで射程に入るのは、この型だけです。

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4. 数の子・かまぼこ・お雑煮に — 磯自慢(静岡県・磯自慢酒造)

塩気型に該当。「穏やか」0.471は人気100銘柄中9位(全国256位)、「ドライ」18位。対して**「華やか」は76位**と、香りをほとんど主張しません。

数の子、かまぼこ、紅白なます、お雑煮。この一群に共通するのは、塩気と出汁の繊細な香りです。香りの高い酒を当てると、まず出汁の香りが消える。逆に甘い酒だと数の子の塩気と衝突します。落ち着いた当たりでキレのある型は、料理の香りを通したまま塩気を受け止めて、次の一口へ渡してくれる。お屠蘇や祝い肴の席で、料理を主役にしたいときの一本です。刺身やお造りが出る席にも同じ理屈で効きます。

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5. 三が日を1本で通すなら — 飛良泉(秋田県・飛良泉本舗)

ここまで4本を場面別に挙げましたが、現実には4本も開けられないという場合があります。その前提で選ぶなら、狙うべきは「どの型にも入らない酒」です。

飛良泉は、上に挙げた4つの型のどれにも該当しません。それどころか、6軸すべてが全国の上位25%にも下位25%にも入らない——全国順位は華やか544位・芳醇770位・重厚582位・穏やか575位・ドライ815位・軽快365位で、いちばん外れた軸でも上位27%どまりです。この条件を満たす銘柄は1346本中73本しかなく、人気トップ100に限れば4本だけ(飛良泉・まんさくの花・黒龍・蓬莱泉)です。

尖った軸がないというのは、単品で飲むと物足りないという意味でもありますが、料理が次々に変わる食卓では最大の武器になります。甘い煮物でも塩気の肴でも決定的に外さない。加えて「重厚」が人気100銘柄中12位と厚みがあるため、冷やしても燗にしても形が崩れにくい。大人数で一升瓶を開けるなら、この位置の一本が最も無駄になりません。

なお、まんさくの花は寿司に合う日本酒5選で同じ役割の主役にしているため、今回は飛良泉を挙げました。

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5本の数値を並べる

括弧内は人気100銘柄中の順位です。

銘柄 華やか 芳醇 重厚 穏やか ドライ 軽快
森嶋 0.429 (55) 0.433 (95) 0.209 (76) 0.371 (38) 0.346 (22) 0.572 (14)
水芭蕉 0.506 (17) 0.480 (84) 0.212 (72) 0.309 (70) 0.279 (45) 0.543 (26)
彩來 0.519 (12) 0.549 (35) 0.213 (71) 0.297 (76) 0.176 (90) 0.515 (37)
磯自慢 0.376 (76) 0.517 (57) 0.245 (47) 0.471 (9) 0.352 (18) 0.431 (77)
飛良泉 0.371 (78) 0.529 (45) 0.327 (12) 0.412 (21) 0.276 (46) 0.479 (53)
(全体平均) 0.339 0.535 0.328 0.393 0.310 0.422

上の4本が全体平均から大きく離れているのに対し、飛良泉だけが6軸とも平均のすぐ近くにいるのが読み取れます。前者4本は「その場面で強い」酒、後者は「どの場面でも落ちない」酒で、正月の買い方としてはこの2種類のどちらを取るかという話になります。

年末年始に効く、銘柄以外の3点

  • 1本で通すなら、買うのは大きい瓶。三が日で複数人が飲む前提だと四合瓶ではすぐ空きます。飛良泉のような中庸型は一升瓶で買っても飽きが来にくい型です
  • 温度を2段階つくる。おせちは冷たい料理、お雑煮と煮物は温かい料理です。同じ酒でも、冷やした状態とぬる燗(40℃前後・鍋の湯を止めて徳利を3〜4分)で出し分けると、料理との温度差が詰まって印象が変わります
  • 甘い段だけは、酒を切り替える価値がある。上の集計のとおり、黒豆や栗きんとんに合う型は他のどの型とも重なりません。ここだけは小さい瓶をもう1本用意すると、重箱の後半が変わります

温度を上げる方向をもっと掘るなら燗酒に合う日本酒5選、甘い側の銘柄をもっと見たいなら甘口の日本酒5選、帰省の手土産として選ぶなら日本酒ギフトの選び方が続きになります。

集まった全員の好みが割れているなら、その場で1分の日本酒診断を回してもらうのが早いです。誰が香り重視で誰が旨味重視かがわかれば、次に開ける一本を決める議論が5分で終わります。