蕎麦に合う日本酒5選 — 香りの低さとつゆのキレで選ぶ
※ 本記事にはアフィリエイト広告(PR)のリンクを含みます
蕎麦と日本酒の組み合わせがややこしいのは、一つの膳のなかで香りの繊細な主役と味の濃い脇役が同時に出てくることにあります。手繰った蕎麦そのものの香りは弱くて消えやすい。ところがそこにつける返し(醤油とみりん、砂糖を出汁で割ったつゆ)は、塩気も甘みもしっかり濃い。さらに天ぷらが添えば揚げ油、鴨せいろなら鴨の脂が加わります。蕎麦に合わせて酒を選ぶというのは、実質的には**「蕎麦の香りを消さないこと」と「つゆと脇役を流すこと」を同時に満たす**という課題です。
味覚の軸で言い直すと、必要な働きは三つです。
- 香りを張り上げない低さ(華やか控えめ) — 蕎麦の香りは酒の吟醸香よりはるかに弱く、香りの強い酒を合わせると蕎麦の側が先に消える
- 返しの塩気と甘みを流すキレ(ドライ) — つゆは一口ごとに口に残るタイプの味で、そのままだと二枚目の蕎麦の香りが分からなくなる
- 長く飲んでも疲れない軽さ(軽快)、または脇役に負けない厚み(芳醇・重厚) — 蕎麦前でゆっくり飲むのか、鴨や天ぷらに合わせるのかで、求めるものが正反対になる
もう一つ、蕎麦には特有の事情があります。酒を飲む時間と蕎麦を食べる時間が分かれていること。蕎麦前として肴と一緒に飲む時間は長く、蕎麦そのものを食べる時間は短い。だから「蕎麦に合う酒」は、厳密には「蕎麦を待つあいだに合う酒」と「蕎麦を手繰りながら合う酒」の二種類に分かれます。
当サイトが利用しているさけのわデータの飲用レビュー(華やか・芳醇・重厚・穏やか・ドライ・軽快の6軸)から、さけのわランキング100銘柄を対象に、蕎麦の食べ方ごとに5本を選びました。5本のうち味の方向が最も離れているのは2番の澤屋まつもとと4番の鶴齢(コサイン類似度0.890)、最も近いのは2番の澤屋まつもとと3番の賀茂金秀(0.984)です。
1. 盛りそば・ざるそばに、まず1本 — 春鹿(奈良県・今西清兵衛商店)
「ドライ」が0.495で全体上位5.9%、ランキング100銘柄のなかでは4番目に高い値です。その一方で「華やか」は0.321で全体上位57.6%(同88位)と平均より下、「芳醇」も上位78.0%(同77位)と低め。キレが突出していて、香りも旨味の厚みも持たないという構成です。ランキング100銘柄のうち、ドライが全体上位25%に入りながら華やかが全体平均以下にとどまる銘柄は6本しかなく、これはそのうちの1本です。
盛りそばは、食べている最中に口に入るものがほぼ蕎麦とつゆだけという、きわめて情報量の少ない食べ方です。だからこそ酒の影響がそのまま出ます。香りのある酒を合わせると、弱い蕎麦の香りが先に負ける。旨味の厚い酒を合わせると、つゆの塩気と甘みの上にさらに味が積み上がって、三口目から蕎麦の味が分からなくなります。香りと厚みを持たずキレだけを持つ型は、つゆを流して蕎麦の香りの出口を空けておくという一点に向いています。冷やから常温で、小さめのぐい呑みで。
春鹿の味わいチャートを見る / 楽天で探す(PR) / Amazonで探す(PR)
2. 蕎麦前で、板わさや卵焼きを前に長く飲む — 澤屋まつもと(京都府・松本酒造)
「軽快」が0.689で全体上位0.8%、ランキング100銘柄のなかで最も高い1本です。対して「芳醇」は0.369で同100位、つまりランキング100銘柄で最も旨味の厚みが低く、「重厚」0.172も同92位。「ドライ」は上位52.6%(同39位)で平均的、「穏やか」も上位87.1%(同81位)と低い。軽さだけが極端に立ち、ほかの軸をほとんど持たないという珍しい形です。
蕎麦前は、蕎麦が出てくるまでの時間を板わさ、卵焼き、そばがき、焼き海苔あたりでつなぐ飲み方です。肴はどれも味が薄く、量も多くない。ここで必要なのは、肴を立たせる旨味でも油を切るキレでもなく、何杯飲んでも口と体に残らない軽さです。厚みのある酒を蕎麦前で飲むと、肝心の蕎麦が来たときに舌がすでに疲れている。この型は、肴に味を足さず、蕎麦の出番まで口をまっさらに保ったまま時間を進められます。冷やしてグラスで、ゆっくり。
澤屋まつもとの味わいチャートを見る / 楽天で探す(PR) / Amazonで探す(PR)
3. 天ぷらそば・かき揚げ・天ぬきに — 賀茂金秀(広島県・金光酒造)
「軽快」が0.569で全体上位6.0%、「ドライ」0.371も全体上位23.8%(ランキング100銘柄で13位)。この2軸がどちらも全体上位25%に入る銘柄はランキング100銘柄で4本だけで、そのなかで「重厚」が最も低い(0.206、全体上位89.7%)のがこの1本です。「芳醇」も上位90.7%(同94位)で、厚みの側はほぼ空に近い。
天ぷらそばとかき揚げそばは、揚げ油がつゆに溶けて蕎麦に絡む食べ方です。天ぬき(つゆと天ぷらだけで蕎麦を抜いた一品)で飲む人なら、口に残るのは油と返しの塩気そのものになります。油は口の中で膜として残る味なので、旨味を重ねるほど重くなり、後半で箸が止まります。ここで効くのは軽さとキレの両方で、油を切りながら、切ったあとに酒の味を残さないという働きです。衣の香ばしさには香りを張り合わせないほうが収まるので、華やか0.417(全体上位24.1%)がぎりぎり上位に入る程度のこの立ち位置がちょうど収まります。しっかり冷やして。
賀茂金秀の味わいチャートを見る / 楽天で探す(PR) / Amazonで探す(PR)
4. 鴨せいろ・鴨南蛮・肉そばに — 鶴齢(新潟県・青木酒造)
「芳醇」0.553がランキング100銘柄で31位、「重厚」0.342が同11位、「穏やか」0.468が同10位、「ドライ」0.371が同12位。この4軸すべてがランキング100銘柄の上位3分の1に入るのは、100銘柄のなかでこの1本だけです。そして「華やか」は全体上位74.3%(同94位)、「軽快」は上位64.9%(同92位)。つまり香りと軽さを捨てて、厚み・まろやかさ・キレを同時に持たせた構成です。
鴨せいろのつけ汁は、通常の返しに鴨の脂と旨味が加わって、盛りそばのつゆとは別物の濃さになります。鴨南蛮や肉そばならなおさらで、熱いつゆに脂が浮きます。ここに1番や3番のような厚みのない酒を合わせると、酒の側が水っぽく感じられて役に立ちません。必要なのは脂と旨味に並ぶ厚みですが、厚みだけでは脂が口に残り続けるので、キレも併せて要ります。香りを持たないおかげで、鴨の香ばしさと競合しないのも都合がいい。常温からぬる燗まで振れます。
鶴齢の味わいチャートを見る / 楽天で探す(PR) / Amazonで探す(PR)
5. かけそば・蕎麦湯に寄せて、燗で — 廣戸川(福島県・松崎酒造店)
「穏やか」が0.517で全体上位8.4%、ランキング100銘柄では2番目に高い値です。あわせて「ドライ」0.200は全体の下位25%に入る低さ(上位86.1%、同83位)。穏やかが全体上位10%に入りながらドライが全体下位25%にとどまる銘柄は、ランキング100銘柄でこの1本だけです。「芳醇」0.564は同27位で旨味もあり、「華やか」は上位48.2%(同84位)、「軽快」は上位55.7%(同83位)。まろやかさと旨味だけで組み上がり、キレも軽さも持たない型です。
温かい蕎麦は、冷たい蕎麦と求めるものが変わります。かけそばやたぬき、きつねのつゆは出汁の旨味が前に出ていて、しかも熱い。ここに冷えたキレのある酒を合わせると、口の中の温度差が開いて料理と酒が別々に通り過ぎます。燗にすると温度が揃うだけでなく、一般にまろやかさと旨味が前に出てキレは鈍るので、もともとキレで仕事をする酒は燗に向かず、まろやかさと旨味で寄り添う型が向くという関係になります。食べ終わりに出てくる蕎麦湯に寄せたいときも同じ方向です。ぬる燗から上燗あたりで。
廣戸川の味わいチャートを見る / 楽天で探す(PR) / Amazonで探す(PR)
迷ったら「冷たい蕎麦か、温かい蕎麦か」で分ける
5本の選び分けは、頼むものにそのまま対応します。盛りそば・ざるそば中心なら1番、蕎麦が出てくるまで長く飲むなら2番、天ぷらを付けるなら3番、鴨せいろや肉そばなら4番、かけそばや温かい蕎麦なら5番です。
1本で通すなら、基準は香りの低さに置くのが無難です。蕎麦の香りは料理のなかでもかなり弱い側で、酒の香りが強いほど蕎麦が後ろに下がります。香りが控えめでキレのある酒を選んでおけば、盛りそばから天ぷらそばまではおおむね一本で走れます。逆に鴨や肉そばが入る日だけは、厚みのある側に寄せたほうが満足度が上がります。
温度の使い分けも効きます。冷たい蕎麦には冷やから常温、温かい蕎麦には燗。同じ酒でも温度を変えると、まろやかさとキレのどちらが前に出るかが入れ替わるので、1本で両方の蕎麦に付き合うなら、キレに寄りすぎていない酒を選んで温度で調整するほうが扱いやすいです。薬味でわさびや辛味大根をたっぷり使う人は、1番や3番のようなキレる側に寄せておくと、薬味の刺激と酒の旨味がぶつかりません。
同じ出汁と醤油の料理ではおでんに合う日本酒5選、天ぷらを主役に食べる日は天ぷらに合う日本酒5選、年越しそばを含む年末年始の献立全体は年末年始・お正月に飲みたい日本酒5選が参考になります。2番のような軽い型をもっと知りたい場合は軽快で飲み疲れしない日本酒5選、5番のような落ち着いた型はまろやかで穏やかな日本酒5選、燗の付け方は燗酒に合う日本酒5選にまとめています。自分の好みがキレ寄りかまろやか寄りかは1分の日本酒診断で確かめられるので、蕎麦屋に行く前に一度試してみてください。