岐阜のフルーティーな日本酒5選 — 香るのに軽くない、37銘柄の「無名県」

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岐阜県はさけのわデータに37銘柄が収録されていますが、人気ランキング(全国100位まで)に入る銘柄が1つもありません。収録10銘柄以上の40県のうちランキング不在はわずか6県で、岐阜はそのなかで最も収録数が多い県です。

それでも華やか値の全国トップ25には、岐阜から2本(山車0.604=15位、淡墨桜0.586=21位)が入っています。2本以上入っているのは長野(4本)に次いで岐阜・埼玉・長崎の3県だけ。香りの上限だけ見れば、決して地味な県ではありません。

そして中身を数えると、岐阜のフルーティー帯は他県とはっきり違う形をしていました。芳醇が該当26県中3位、重厚2位、軽快は25位です。

岐阜のフルーティーは12本

当サイトが利用しているさけのわデータの収録1346銘柄で、華やか値の上位25%の境界は0.414。これを超える銘柄は全国で339本(25.2%)、岐阜県は**37銘柄中12本=32.4%**です。

この該当率はフルーティー該当が5本以上ある26県で12位。長崎60%・山口57%・群馬50%といった上位県には届かず、ここは平凡な数字です。岐阜が変わっているのは率ではなく、12本の中身のほうです。

データで見る岐阜のフルーティー12本

12本の平均値を、全国のフルーティー該当339本、岐阜37銘柄全体、全国1346銘柄と並べます。

軸 岐阜12本 全国フルーティー339本 岐阜37本 全国1346本
華やか 0.487 0.479 0.330 0.339
芳醇 0.560 0.523 0.550 0.535
重厚 0.273 0.236 0.358 0.328
穏やか 0.320 0.311 0.379 0.393
ドライ 0.230 0.253 0.296 0.310
軽快 0.450 0.498 0.394 0.422

見るべきは左の2列です。全国のフルーティー帯より芳醇が高く(+0.037)、重厚も高く(+0.037)、軽快が低い(-0.048)。華やかと穏やかはほぼ同じ、ドライは少し下(-0.023)。

26県で並べると、この帯の芳醇平均は岐阜が3位(岡山0.578、埼玉0.571、岐阜0.560)、重厚は2位(岩手0.274、岐阜0.273)。そして軽快は25位で、下に埼玉(0.419)しかいません。

比較すると分かりやすいのは群馬です。群馬のフルーティー13本は軽快が26県2位・重厚24位で、香りと軽さ以外を削った形でした。岐阜はその正反対——同じ「フルーティー」の棚にありながら、旨味と厚みを残したまま香らせる方向に寄っています。

「軽快が全国の平均以下」が12本中6本

フルーティー帯は普通、軽いものです。全国339本のうち軽快が全国中央値0.428を下回るのは65本、わずか**19%**しかありません。

ところが岐阜の12本では、これが6本=50%。26県のなかで1位です(2位は山形と埼玉の44%)。香りが立つ岐阜の銘柄を手に取ると、半分は「全国平均より軽くない」酒に当たります。

もう一段しぼって、芳醇が上位25%(0.586以上)かつドライが下位25%(0.240以下)——つまり旨味が濃くてキレを立てない銘柄を数えると、12本中6本(50%)。全国339本では44本(13%)ですから、4倍近い比率です。フルーティー該当が10本以上ある14県に限れば、この50%は1位になります。

岐阜のフルーティーは、香りのあとに旨味が残って、すっと切れない。数字はそう言っています。

7本が、ほぼ同じ形をしている

その「旨味側」の集中ぶりは、類似度にも出ます。

12本の全66ペアのコサイン類似度は平均0.9813。フルーティー該当10本以上の14県では福島(0.9849)に次ぐ2位で、66ペアのうち22ペアが0.99以上です。

とくに固いのが、芳醇が全国上位25%に入る次の7本。21ペアすべてが0.9935以上で、平均0.9968あります。

  • 千代乃花(杉原酒造)
  • W (ダブリュー)(渡辺酒造店)
  • 初緑(奥飛騨酒造)
  • 初緑(高木酒造)
  • 津島屋(御代桜醸造)
  • 恵那山(はざま酒造)
  • 小左衛門(中島醸造)

7本の値域は華やか0.421〜0.487、芳醇0.589〜0.624、重厚0.268〜0.331、ドライ0.163〜0.244、軽快0.385〜0.452。6軸で見るかぎり実質的に同じ形です。群馬にも似た6本クラスタ(互いに0.9926以上)がありましたが、岐阜の7本はそれより固く固まっています。

ちなみにこの7本には、蔵が違うのに同じ「初緑」という銘柄名の2本(奥飛騨酒造・高木酒造)が含まれていて、両者の類似度は0.9961。味の形まで近いので、6軸のデータからは区別がつきません。

5本の選び方

以下の5本は、12本を6軸ベクトルで比べ、蔵を重複させず、全10ペアの最大類似度が最も小さくなる組み合わせを選びました(12本は全部が別の蔵です)。

792通りを総当たりした結果、最大ペアが最も低いのがこの5本で0.9854。全10ペアは0.9388〜0.9854、平均0.9708です。上で見た7本クラスタからは津島屋だけを代表として採り、残りの6本は次章の表に回しました。並び順は華やか値の高い順です。

1. 山車(原田酒造場)|岐阜の華やか1位、12本で唯一の「軽い」側

華やか**0.604は全国15位(上位1%)**で岐阜37銘柄の1位。ここから先が極端です。

芳醇0.434は12本の最下位(全国1242位/下位8%)、重厚0.155も最下位(1313位/下位3%)、穏やか0.283は下位12%。一方でドライ0.332(上位37%)は12本中2位、軽快0.482(上位26%)は4位です。

つまり、香りだけを極限まで上げて、旨味・厚み・丸さを全部落とした形。この記事で見てきた「岐阜=香って軽くない」という平均像から、12本でいちばん外れているのがこの1本です。12本の平均ベクトルとの類似度0.9716は最も低く、津島屋との類似度0.9388は66ペア中の最小値でした。よく冷やして、単体で香りを追うか、味の軽い料理と。

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2. 淡墨桜(白木恒助商店)|香りは全国21位、なのに厚みは中央

華やか0.586は**全国21位(上位2%)**で岐阜の2位。山車と並ぶ「香りの上限」側の1本ですが、残り5軸の形はまったく違います。

重厚0.297は**全国735位=ほぼ中央(上位55%)**で、12本中5位。華やか上位2%の銘柄で重厚が中央に残っているのは珍しい組み合わせです。ドライ0.184(下位10%)は12本中10番目で、キレは立てません。芳醇0.505・軽快0.445はどちらも12本の中位です。

香りは全国トップクラス、後口は締めない、厚みは平均並み。山車とは華やかで0.018しか違わないのに、重厚で0.142、ドライで0.148の差があります。同じ「岐阜の華やか上位2本」がここまで離れているのが面白いところ。冷やしすぎず、10〜15度あたりのほうが厚みが分かります。

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3. 百春(小坂酒造場)|旨味を持ったまま、12本で2番目に軽い

華やか0.469は上位12%。この1本の位置は、芳醇0.579(上位29%)と軽快0.527(上位14%)を両方持っているところです。

軽快0.527は全国190位で12本中2位。重厚0.224は下位16%、穏やか0.277は下位11%で、軽さの側に振れています。それでいて芳醇は12本の平均(0.560)に近い0.579を確保しています。

「岐阜らしい旨味」と「フルーティー帯らしい軽さ」を両方持つ折衷型で、12本のなかでは珍しい形。全国のフルーティー帯に近いバランスを岐阜のなかで探すなら、この位置になります。冷やして幅広い料理と合わせやすい数値です。

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4. 津島屋(御代桜醸造)|岐阜のフルーティーの典型、その最も濃い版

華やか0.448は境界を超えた位置(上位16%)で、12本では9番目。代表値はほかの軸です。

芳醇0.619は12本中2位(全国145位/上位11%)、重厚0.322も12本中2位(上位45%)、そしてドライ0.163は12本の最低値(全国1254位/下位7%)。前章の「芳醇上位25%かつドライ下位25%」条件を、12本のなかで最も強く満たす1本です。

香って、旨味が濃く、厚みがあり、まったく切れない。この記事の主題である「岐阜の形」をそのまま濃くしたのがこれで、7本クラスタの代表として選びました。山車との類似度0.9388は66ペア中の最小、つまり岐阜のフルーティーの両極が山車と津島屋ということになります。冷やしても温度を上げても崩れにくい数値で、味の濃い料理に向く側です。

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5. 百十郎(林本店)|12本で唯一、キレが全国上位25%に入る

華やか0.446は上位17%で、12本では10番目です。

この1本だけの特徴はドライ0.389で、12本で唯一の全国上位25%(251位/上位19%)。12本のうち10本がドライで全国下位30%以下に沈むなか、はっきりキレる側に立っています(もう1本は山車の0.332=上位37%)。軽快0.526(上位14%)は12本中3位、穏やか0.271は12本の最低値(下位10%)、芳醇0.482は下位20%です。

香りは控えめに立って、旨味は乗せず、すっと切れる。津島屋とはドライが0.163対0.389とほぼ正反対で、後口の印象が最も離れる組み合わせです。食事の邪魔をしない酒を岐阜で探すなら、12本のなかではここが唯一の答えになります。よく冷やして、脂のある料理にも。

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残る7本も見ておく

12本のうち、上の5本以外は次の7本です。華やか値の高い順に並べます(銘柄名・蔵名はさけのわデータの表記のままです)。

銘柄 華やか 芳醇 重厚 穏やか ドライ 軽快
美濃天狗(林酒造) 0.511 0.482 0.225 0.367 0.187 0.536
千代乃花(杉原酒造) 0.487 0.594 0.289 0.327 0.230 0.407
W (ダブリュー)(渡辺酒造店) 0.483 0.613 0.331 0.297 0.212 0.385
初緑(奥飛騨酒造) 0.480 0.602 0.268 0.335 0.244 0.404
初緑(高木酒造) 0.465 0.599 0.318 0.353 0.176 0.411
恵那山(はざま酒造) 0.446 0.624 0.277 0.360 0.202 0.405
小左衛門(中島醸造) 0.421 0.589 0.306 0.348 0.240 0.452

補足します。恵那山の芳醇0.624は12本の最高値(全国118位/上位9%)、W (ダブリュー)の重厚0.331も12本の最高値(上位42%)で、軽快0.385は12本の最低値。「岐阜の旨味側」の上限はこの2本にあります。

千代乃花は12本の平均像にいちばん近い1本で、平均ベクトルとの類似度0.9984。次が初緑(奥飛騨酒造)の0.9979で、この2本の類似度は0.9996——66ペア中の最大値です。迷ったらこのあたり、という位置づけになります。

美濃天狗は7本クラスタの外側で、芳醇0.482は下位20%、軽快0.536は12本の最高値(全国161位/上位12%)。穏やか0.367も12本中1位で、香って軽くて丸いという、岐阜のなかでは他県的な形をしています。

岐阜でフルーティーを選ぶときの物差し

  • ランキングは手がかりにならない:37銘柄で全国100位以内がゼロ。一方で華やか全国トップ25には2本入っている。知名度と数値が一致しない県
  • 軽くない:12本の芳醇平均0.560は該当26県中3位、重厚0.273は2位、軽快0.450は25位。軽快が全国中央値を下回るのが6本(50%)で26県1位
  • キレない:「芳醇上位25%かつドライ下位25%」が6本(50%)。全国フルーティー帯の13%に対して4倍近い
  • 似ている:66ペアの平均類似度0.9813で該当10本以上の14県中2位。うち7本は互いに0.9935以上

つまり岐阜の棚では、「香るかどうか」と同時に「旨味が乗るかどうか」もほぼ決まっています。選ぶときに実際に分かれるのは後口だけです。12本のドライは0.163(津島屋)〜0.389(百十郎)で、上位25%に入るのは百十郎だけ。後口で食事を流したいなら百十郎、香りのあとに旨味を残したいなら芳醇上位25%の7本、という粗い切り方でもだいたい合います。

香りより旨味そのものを軸に選ぶなら旨味とコクの芳醇な日本酒、逆に軽さを最優先するなら軽快で飲み疲れしない日本酒が参考になります。フルーティー全般の選び方はフルーティーな日本酒の選び方にまとめました。

他県と比べたい場合、岐阜と最も対照的なのは群馬(軽快2位・重厚24位)です。香りの上限の高さなら長野・山形・秋田、丸さなら京都・福島、本数なら新潟が、それぞれ岐阜とは違う形をしています。

自分がどの軸に寄っているかは、1分の日本酒診断で確かめられます。